Column

これでスッキリ(?)、ヘッドセット規格

2015/5/23
追記 2015/7/17

ご注意

まず最初に。
  今回述べる部品は、「ヘッド」=頭と呼ばれるくらい大切な部品です。ヘッド回転調整は比較的一般的なツールでもできますが、回転調子を取ることにやはり技術が必要ですし、ヘッドセット交換になると、技術だけでなく特殊な専用工具も必要になります。これら専用工具は、個人で使うには活躍する頻度が少なく、また非常に高価なツールであり、個人で所有することは非現実的なものです。ヘッドのメンテナンスについては、自転車をお求めの販売店で十分にご相談されますようお願いいたします。

ヘッドセット?
ヘッドパーツ?
ヘッド小物?

  ヘッドセット・・・、現在では英語圏でも通じるような言い方をしますが、この「ヘッド小物」、あるいは「ヘッドパーツ」。後で述べますが、以前はそんなに種類はなかったのですが、現在はアヘッドが主流で、さまざまな寸法・規格が存在して、補修の時などにややこしくなっているのが現実です。前項で書いたBBセットのように混沌としている面もありますが、Raleigh、ARAYAで採用しているヘッド規格を中心に、まとめてみたいと思います。

ヘッドセット各部名称

  ヘッドセットは、多くの部品から構成され、それぞれに名称があります。図では各構成部品の名称を記しました。全体を表す「ヘッドセット」同様に、各部の名称は英語圏でも通じるカタカナ横文字で表現されることが多いのですが、下記で示す業界用語で表現するほうが、個人的な意見ですが何となくしっくりします。実際に、一般車中心のお店だけでなく、スポーツバイク系のお店の現場でも、業界用語がよく使われているようです。このコラムでは、各部を表す際に、業界用語を使用します。(ヘット、ホークはちょっとツライかも・・・)
  上ワン・下ワンの「ワン」は、お椀のワンであり、他も日本語の羅列が見られます。中には「下玉押し」なんてビミョーな言葉もあるのですが(笑)、部品名にこれだけ日本語が多いのも、自転車が日本に馴染み歴史が長いという証拠でしょう。自転車よりちょっと歴史も浅いクルマでは、日本語で表記される部分は非常に少ないですね。なお、「ヘットパイプ」に見られるように、「ト」に濁点が付いてません。ヘッドセットも業界用語では、「ヘット小物」になります。他には「ペタル」(ペダル)や「ラック」(ラグ)など、濁点を外す例があります。軽さを表したかったことからでしょうか。
  新参のアヘッドでは、歴史が浅いだけに業界用語でも横文字的な表現になっていることでもわかります。しかし、スターナットは、別名「手裏剣」。スターファングルナットでは、舌を噛みそうになりますし、アヘッドが日本に紹介されたときに、英語での正確な部品名まで伝わっていなかったようです。
  図で示したヘッドセットの構造は、一例です。ヘッドセットによっては、一部で異なる部品が付属したり、無かったりします。アヘッドでは、カートリッジベアリング式を図で示しましたが、、スレッドで示したようなボールリテーナー式が、実際には多いです。
  また図では、すべての各部品が外れた状態のイメージとなっていますが、上下ワンはフレームヘッドチューブに、下玉押しはフォークにそれぞれ圧入され、専用工具でないと外すことはできません。圧入組付も同様に専用工具が必要です。アヘッドのアンカーナットもフォークステム内部に圧入されていて、こちらは工具によっても外すことはできません。

AHEADキャップセット詳細 追記ました(2015/7/17)

  ヘッドセット各部品図の下段に、キャップセット詳細を追記しました。
 普通はアヘッド各部品図①~③で構成されるキャップセットが採用され、アンカーナット(スターファングルナット)が、フォークコラム内部にくさびのように食い込んで固定されますが、カーボンコラムで食い込ませることが好ましくないため、ハンドルステムのウス(ウェッジ)のように内拡して固定するものです。
  プレッシャーアンカーと呼ばれていて英語名ですが、アンカーナット同様に英語圏で通用しません。一般的にコンプレッションプラグと呼ばれているようです。プレッシャーアンカーは、おそらく最初に作られたHIRAMEさんの商品名が根付いたのではないかと思われます。新参の部品であることからも、残念ながら(?)業界用語は存在しないようで・・・。
  なお、現在普通に見られるキャップはアルミ製ですが、AHEAD登場当初は樹脂製でした。従来からのハンドルステム引き上げボルトの感覚で過大なトルクで締め付けられないようにするためでした。あくまでヘッド調整用で、締結用の締付ではありません。1990年代マディフォックス取説抜粋にありますように、締付トルクは2.5Nm(25kgfcm)までで、この樹脂キャップは3Nm以上であえて変形または破損するように作られていて、過大なトルクであることを示すようになっていました。

ヘッドセット名称
(2015/7/17) 追記図
ヘッドキャップ
(2015/7/17) 追記図
ハンドルステム・アヘッド小物
AHEADSET(アヘッド)
構造について注意

アヘッドと呼ばれる構造、すなわちフォークコラムをヘッドセット貫通して、ハンドルステムを固定するタイプが一般的になりました。ハンドルステム取付部分の寸法が統一化され、さまざまな寸法のハンドルステムが入手可能になり、体格や使用用途に応じてハンドルステムが容易に交換できるようになったことはありがたいことです。ハンドルステムによるハンドル位置の調整については、別コラム「乗車可能なサイズは?」「ハンドルまでの距離」に書いておりますので、ご参考いただければと思います。
アヘッド(AHEADSET)は、JOHN RADER氏が開発、CANE CREEK社が特許を有し1993年度から各社完成車にも採用されました。CANE CREEK社以外の各ヘッドセットメーカーにも、パテントライセンス供与を行い、各メーカーから多くのヘッドセットが発売され、20年間の特許保護期間が終了するまで、パテントライセンスで得た額は相当な金額になると思われ、バーエンドと共に自転車業界におけるアメリカンドリームの一つと言ってもいいでしょう。
なお、AHEADSETは、CANECREEKの商標です。アヘッドが「スレッドレス」と呼ばれるのは、商標関係によるものでしょう(threadスレッド=ネジ+lessレス=無い)。また従来のネジがあるタイプを「スレッド」と呼ぶのは、スレッドレスと言われ始めてからのこと。それまではスレッドとわざわざ言わなくても、ネジがあるのは当たり前でした。このコラムでは、もっとも多く言われている用語として、「アヘッド」、「スレッド」とします。
フォークコラムにネジを切る必要がなくなったことから、アルミ、カーボン製のフォークコラムが可能になっただけでなく、ヘッドスパナ不要でヘッド調整が出来ることや、ハンドルステム差込部分を省略することに拠る自転車の軽量化にも貢献し、数々のメリット有し、そして各社へのライセンス供与をしたことから世界標準にもなったと思われます。 アヘッドの仕組みを下図で示します。

アヘッドの仕組み図
アヘッドの種類
インテグラルヘッド等

  アヘッドをベースにして、ヘッドセットをヘッドチューブに内包した方式が、一般に言う「インテグラルヘッド」です。発想はクルマからと聞きます。今では国産車も同じですが、ドイツのクルマを中心に、空力の考えからドアの隙間を極限まで狭くする設計が80年代後半から多く採用されました。クルマではボディプレス成型技術が要求される製法ですが、デザイン性と相まって急速に普及しました。このデザインを自転車にも・・・と言うことで、ヘッドチューブとフォークの隙間を極限まで詰めることが考えられました。今までヘッドセット下部分でフレームとフォークは切り離された存在であったのが、インテグラルで一体感が生まれ、現在ではフレームカラー、デカールもフレーム/フォーク一体としてデザインされたものも非常に多いです。しかし、インテグラル方式については、非常に多くの寸法規格が存在し、悩ましい状況を作り出しているのも事実です。ホイールの規格、あるいは前回のBBセットの規格や、他の部分の規格でも同じですが、将来に消えてしまう規格ほど悲しいことはありません。Raleigh、ARAYAでは、進取の気持ちも持ちながらも、将来的に使われるであろう寸法規格を取り入れているつもりです。採用されているヘッド寸法を下図でまとめました。

AHEAD A

もっとも一般的なタイプで、上下ワンが外部に露出した方式です。Raleighでは、細身のクロモリフレームで、ヘッドチューブも外径を細くするために採用しています。ヘッドチューブ補強リング外径とほぼ同じで、一体化した外観デザインのINTELLASETというヘッドセットを採用しました。もっとも一般的なアヘッド方式ですので、今後も多く使われる規格ですし、補修性にも優れます。

AHEAD B

CANECREEKで、IS INTEGRATEDと呼ばれた規格で、ヘッドチューブにヘッドセットを内包化した元祖的な規格です。Raleighのアルミ、カーボンロードで数多く採用してきました。ヘッドチューブ内径41.2mm部分に、直接カートリッジベアリング、あるいはベアリングセットを挿入する方式です。カートリッジ挿入奥端面の角度は、図で示した角度45度のタイプの他に、60度のタイプがありますが、より一般的な45度タイプを採用してきました。

AHEAD C

Bと同様の方式ですが、ヘッドチューブ内径42.0mmで、微妙に異なります。カンパニョーロ(カンパ)と、カンパと親和性が高いRitchey(リッチー)で多く作用され、Bと同様に一般的になりました。2014年ARAYA MFBと、シクロクロス的設計を施した現行ARAYA CXに採用しました。クロモリフレームに合わせ、出来る限り細くデザインした独自形状のヘッドチューブを採用しています。

AHEAD DE

B、Cがカートリッジベアリングを直接ヘッドチューブに挿入するに対して、上下ワンに相当する部品を一度ヘッドチューブ内部に圧入してから構成するヘッドセット。ゼロスタック(ZS)あるいはインターナルと呼ばれる方式になります。上下ワンに相当する部品を圧入しますのでヘッド外径が大きくなりますが、ヘッドセット耐久性も高まります。RaleighのMTB、また以前(2001年以前)のARAYA MuddyFoxなど多くのMTBに採用してきました。 現在では2015 ARAYA MFBとCXGに採用。図に示したヘッドチューブ形状は、最近主流になりつつある1.5”にも対応したデザインで、下ワンを外部露出した1.5"用の下ワンに交換することが可能。CXGでは標準で1.5"を採用しました。

AHEAD F

台頭してきた1.5"テーパードもさまざまな寸法規格が存在します。今後もっとも主流になると考えられる上図タイプを、ARAYA EXRに採用しました。ヘッド下で外径51.2mmのカートリッジベアリングを内包しますので、必然ヘッドチューブが太くなりますが、他チューブも大径のカーボン、アルミフレームにはマッチするでしょう。ヘッド上側は、上図Cのカンパタイプが採用されます。カンパタイプが一般化した表れでもあります。

以上は、現在までRaleigh、ARAYAで採用してきた寸法規格ですが、他社さんでは、このほかにさまざまな規格のヘッドセットが採用されているようですし、見た目ではほとんど変わらず、微妙に寸法の違う規格も存在します。ヘッドセットの補修については、お店で十分にご相談され、ヘッドセットの寸法規格を確認の上、お店での補修依頼されることが必要です。   下図は、2015MFBにおける1.5"テーパーヘッド互換性を表した図になります。独自設計のヘッドチューブにより、下側ヘッドセットを1.5"用外部露出ヘッドセットに交換することで、例えば1.5"テーパーヘッドのサスペンションフォークを換装することが可能です。オリジナルのヘッドチューブは、細身のクロモリフレームにもマッチするように、出来る限り外径を小さくしたデザインになっています。   以前のMFBやRaleigh、ARAYAのMTBの上記Dの1-1/8" AHEAD INTERNAL ZS ZeroStackタイプにおいては、ヘッドチューブが下図に示すような設計でないので、1.5"互換性に対応しておりません。あしからずご了承願います。

INNOVATIVE
スレッドヘッドセット

  主流のアヘッドに対して、スレッドと呼ばれている伝統的な方式も再度注目されています。 ネジ式とも呼ばれます。と言ってもクラゲに刺されて女医センセイに診てもらうこととは違います・・・なんのこっちゃ。
  フォークコラムにネジがありヘッドセットを組み込んでいくものです。スレッドでは、アヘッドのように多くの寸法規格に悩まされることは少なかったです。ほとんどがJIS(すなわち英国規格)で、一部イタリアンが存在していた状況でした。もっと特殊なフランス規格や、BMXに多かったアメリカンも存在しましたが、日本においては特殊な存在でした。
  海外においては、さまざまな規格が乱立していて大変でしたでしょう。BBセットで説明した希少ながら存在したスイス規格のように、これら以外の規格もあったかもしれません。特に北米では、独自のアメリカンに加え、欧州から輸入されたスポーツ車でイタリアン、フレンチがあり、その後日本から大量に輸入されたスポーツ車は当然JIS規格です。JIS規格が増えた後にMTBが登場し、日本からのOEM輸入も多く、BBセット同様に北米でJISが主流になったようです。後ほど説明する1-1/8"、1-1/4"オーバーサイズも1インチのJISをベースに発展したように思われます。しかし北米でも、高級なロードはイタリアからの輸入が続き、イタリアンは高級モデル用として定着したようです。また国際規格ISOでも、イタリアンが標準となっています。
  現在Raleigh、ARAYAともスレッドの場合は、日本標準1インチJIS規格を採用していますが、フレームセット販売のCRDは、カンパニョーロコンポで組まれることも多い状況を想定して、あえてイタリアンを採用しています。
  スレッドタイプの各寸法を図でしましました。現在のBMXはアヘッドが多く、上記のアヘッドに準じるか、上記のように特殊サイズのアヘッドですが、クラシックなBMXでスレッドの場合は、ほとんどがアメリカン規格(特に決まった表現はありません)で、ヘッドセットだけでなくハンドルステム差込部分内径(つまりハンドルステムポスト外径)も異なります。古いフランスブランドの自転車(70年代に輸入されたプジョーなど)は、フレンチ規格になります。見た目ではほとんど違いが分かりませんので注意が必要ですし、補修部品の入手が非常に厳しい状況です。趣味だけでビンテージものに手を出されないほうが賢明と思います。
  他のコラムでも書いたことがありますが、ここでもインチ寸法ベースのオンパレードです。7/8インチ=22.2mm、1インチ=25.4mm、1-1/8インチ=28.6mm、1/1/4インチ31.8mmなどが見られます。フレンチはさすがにメートル法発祥の国ならではで、スパッと整数が並んでいます。
  ネジ規格でTPI(Thread per Inch)とあるのは、1インチ(25.4mm)内にネジ山が何山を表しています。24TPIは25.4mm内にネジ山が24山あるということです。外径が25mm以上ある場合にネジピッチがわずか1mm程度のネジと言うのは、他の工業製品ではあまりありません。微細にヘッド調整を行う必要性から採用されたのでしょう。
  MTBにおいてのスレッドタイプは、フレームの強度アップのために、フレームチューブのオーバーサイズ化が図られ、ヘッド寸法のオーバーサイズ化も行われました。アヘッドに移行する前に、スレッドタイプのオーバーサイズが1990~92年に現れます。アヘッド登場の93年以降も一般的なMTBに長く使われました。
  オーバーサイズ化を提唱した第一人者はGary Fisherなのですが、彼の提唱したサイズは現在一般に見られるサイズよりはワンサイズ大きいもので、Fisherサイズあるいは1-1/4サイズと呼ばれ、現在では一部タンデムなどに残っています。Fisherのオーバーサイズ提唱後、間髪おかず現れたのが現在主流であるフォークコラム28.6mmの1-1/8サイズで、TIOGAから出ました。それまでのフォークコラム25.4mmから、31.8mmではあまりにも違いがありすぎ、後発の1-1/8サイズが一般化してしまったのです。
  1-1/8、1-1/4サイズは、1インチのように微妙な違いでのヘッドセット詳細寸法での寸法違いが存在しません。各部寸法を図に示します。この規格はRaleigh、ARAYAを問わず、多くのブランド、モデルに採用されてきました。ハンドルステムのポスト差し込み部分が25.4mmであれば、すべてが1-1/8規格と言って間違いではありませんし、28.6mmなら1-1/4規格と言えます。

コラム寸法
ラレー式 or 竹式?

  ヘッドの上下ベアリングを受ける方法は2種類が存在します。下図で示しますように、ヘッドチューブ上下にワンを圧入するタイプと、上側ではワンでなく玉押しになるタイプです。タイプによりボールリテーナーの向きが変わり、注意が必要です。向きを反対につけるとハンドル回転が重いだけでなく、リテーナーを破損し、ヘッドに大きなガタを発生させ事故の原因にもなります。
  一般的に多いのは上下ともワンのタイプで、「ラレー式」と呼ばれていました。ラレー型と言われるものは、リム、ドロヨケ、チェーンケース等さまざまな部品で存在しますが、ヘッドにもラレーを冠したものがあるのです。
  ラレーの長い歴史の中で、発明製品、開発製品は数多いのですが、ラレーの歴史でヘッドについての記述がないので、独自のものではなかったのかもしれません。明治維新以来、大久保利通を中心に進めた殖産興業は、訪欧団の英国視察によるもので、自転車についても多くを英国に範を求めたはずです。当時最も多く生産販売されていたラレーが必然的に研究の中心となり、そのラレーに見られたヘッドセット構造であったので、ラレー式と呼ばれたのではないかと考えます。「型」でなく「式」にしたことに、その理由が見られます。上下ともワンにして部品を共通化し、合理的な構造と生産性を考慮した英国らしい実用主義的な設計と言えます。
  また、1964年開催の東京オリンピックを控え、ロードは世界を席巻していたイタリアに範を求め、カンパのヘッドセットで、今までのラレー式と異なった構造に遭遇します。 ヘッドチューブは縦方向です。ベアリングを受ける部分は、上下からの荷重(乗員・自転車の荷重と地面からの反力)が掛かり、ハブのように左右で受けることとは異なり、上下でベアリングを受ける意味合いが変わってきます。そのことを考慮したカンパ方式に、競技世界の要求に見出します。「カンパ式」とも呼ばれるのですが、メーカー名を冠するのが悔しい気持ちもあったのか、「竹式」とも言われました。ヘッドチューブ上側に圧入する特徴的な上玉押しが、単体で見ると節の部分で切断した竹に見えることからの命名だそうです。
  実は「竹式」という言葉だけ覚えていて、日本に会社があるヘッドセットメーカーの社長さんに由来を訊ねて判明したもの。その際に「ラレー式」という言葉も教えてもらいました。現在では、「ラレー式」も「竹式」も声に出して言われることはなく、多分忘れ去られる用語でしょう。このほかにも自転車では、あまり使われなくなってしまった素敵な用語がいっぱいあるのですが、また今度纏めてみたいと思います。
  以上経緯の薀蓄は置いておき、竹式では、ヘッド上側でリテーナーの向きが逆になりますので注意が必要。アヘッドでは、締付構造上、竹式では適正な圧力が掛けられないためラレー式がほとんどです。但し希少ですが、竹式のアヘッドも存在するようです。
  なお、Raleigh、ARAYAのスレッド採用のモデルでは、ARAYA EXSでヴィンテージロードの概念も継承して竹式のTANGE LEVINを採用。他はすべてラレー式になりますが、Raleigh CLS、ARAYA RAN、DIA、FEDは後で述べるように輪行ヘッド構造になっています。

アヘッド比較図

ラレー1920~1930年代カタログより

1920~1930カタログより抜粋
リテーナー

  ヘッドセットに組込むベアリングを「リテーナー」と言いますが、正確には「ボールリテーナーに組み込まれたボールベアリング」になります。それぞれのベアリングを保持している額の部分がボールリテーナー(retainer=保持装置)になります。
  リテーナーを使わずにワンに1個、1個ベアリングを詰めていく方式、通称「バラ玉」もあります。なんとなく高級品の認識がありますが、以前では普通の自転車もすべてバラ玉で、逆にスポーツ系の高級車にリテーナーが使われたことがありました。当時はリテーナーのコストが高かったのでしょう。後で述べるように輪行では、フォークを抜くことに利便性を見出し、スポーツ車の輪行仕様への最初の改造は、バラ玉がばらけないリテーナー式に交換することから始まりました。
  バラ玉と異なり、リテーナーの方が自転車組立生産効率が非常に高まります。リテーナー式が瞬く普及した理由です。一部台湾製ハブでもリテーナー式が取り入れられた時があったそうですが、ワンの径が小さいハブでは難しかったようです。つまり当然バラ玉の方がベアリング受構造としては優秀と言うことになります。
ベアリングは、さまざまの種類の外径寸法が使われていて・・・

(以下の分数の数値はは、またまたインチです)
  1/8" (≒Φ3.18mm)
  5/32"(≒Φ3.97mm)
  3/16"(≒Φ4.76mm)
  7/32"(≒Φ5.56mm)
  1/4" (≒Φ6.35mm)
  一般的に多いのは、5/32"になります。INTELLASET、INTEGRATED CANE CREEKなど外径の小さいコンパクトなヘッドで1/8"になりなります。また1.5"などのヘッド大径化により、さらに大きなベアリングが使われる場合も多くなってきました。
  リテーナーの形状は、2種類あり、外周部に枠のある一般的なものと、外周部でベアリング球面が完全に露出しているタイプがあります。
  ベアリングの径やリテーナーの形状など、パッと見には違いがわかりにくい場合があります。交換の際には、販売店さんと十分にご相談する必要があります。

ベアリングリテーナー
ベアリング露出

周囲に額があるリテーナーが一般的です。ヘッドセットの玉当たりの構造により使われるリテーナーが異なりますので、補修の際に注意が必要。また上記でのラレー式、竹式の違いにより、ヘッド上側でリテーナーの向きが異なります。

輪行ヘッド

  輪行は、旅の行程の自由度があり、ツーリングとしていい手段ですが、自転車を分解・組立する行為です。安全上の問題もあります。誰でも出来ることではありません。メーカーとして、輪行を積極的にお勧めすることができない理由でもあります。
  その前提でのお話になります。ドロヨケ、フロントキャリアのついたツーリング車では、輪行の際にはフォーク・前輪・前ドロヨケ・フロントキャリアを一体として、フォークごとヘッドチューブから抜いてしまう方が便利な場合があります。その際にヘッドのボールベアリングが脱落しないような構造にしたのが、よく言われる「輪行ヘッド」と呼ばれるヘッドセットです。またマイクロアジャストと言う構造を有し、後述の利便性もあります。
  このいわゆる輪行ヘッドは、Raleigh CLS、ARAYA RAN、DIA、FEDに採用しています。構造を図で示します。ヘッド上下ワンには、スナップリングでボールベアリングとワン組込の玉押しを固定して、フォークを抜いてもベアリングが脱落しないようになっています。スナップリングを外せば、一般のヘッドセットと同じようにグリースアップができます。
  ヘッドの締付は、上玉押しと上ナットで互いに締め付けるものでなく、上玉押しを手で締めこんで、マイクロアジャストと呼ばれるギザ付ワッシャーで緩まないようにしてから、上ナットで締め付けます。マイクロアジャストのギザがずれない限りヘッドが緩みません。したがってマイクロアジャストの上部にセットされる、ヘッドケーブルハンガーを締め付けると、マイクロアジャストは緩むことがなく、上ナットは工具で締め付けなくても構造上ヘッドが緩みません。輪行の際に嵩張るヘッドスパナを持ち歩かなくても済むことになります。
  しかし、この組立はあくまで構造が分かって行うことが前提で、定期的にヘッドの状況を確認する必要もあります。何度もになりますが、輪行は自ら自転車を分解して組立てる方法です。実際に行う場合は十分に注意して行う必要があります。
  また輪行袋から自転車をはみ出したままとか、混んだ電車内に輪行袋を持ち込むなど、輪行のマナーが問われる問題も顕在化しており、いい旅の手段である輪行が規制される恐れも出てきております。輪行を行う場合は、万一の事故や、今後の規制強化も十分に考慮して、熟練の方と同行するなどして始められるよう、強く、強くお願いします。

輪行ヘッド構造

輪行ヘッド構造図
アヘッド登場前に
アヘッドステムが
存在していた!!
(懐古自慢です・・・)

  ヘッドのオーバーサイズ化の後、間もなくして現在主流のアヘッドが現れました。しかし、アヘッド登場前に、アヘッドタイプのハンドルステムが存在していました。また当社の自慢になりますが、1992年モデルのマディフォックスRCRB、MTRBに見ることができます。ネジ式のフォークコラムは、ヘッドセットを貫通して、その上に現在アヘッドで見られるものと全く同様のハンドルステムを組み付けたものです。アヘッド同様に、ハンドルステムの差込部分を省き軽量化を目指したものであり、外観上の新鮮さもポイントです。また現在のアヘッドステムと同じく、ハンドルステム反転とヘッドスペーサーによるステム高さ調整の可能性も備えていました。
  とは言うものの、フォークコラムに抱きかかえるように固定するハンドルステムの方式は、古い文献図案に見ることできる方法です。マディフォックスでは、アヘッドのようなヘッド構造までには思いが及ばなかったのが残念ですが、古いタイプでは不可能であったハンドルステムの高さ調整機能は、パテント取得しておかなかったことが悔やまれることでもあります。プチ・ジャパニーズドリームになったかも・・・?
  フォークコラムは、ネジを立てた上にハンドルステムを固定するので、フォークコラムの強度を案じました。上記スレッドの寸法表にあるように1-1/8ではフォークコラム外径28.6mmで、内径25.4mmですから、肉厚1.6mm。ここにネジを立てますから、ネジ底からは、肉厚1mmもありません。何度も強度試験・疲労試験を行い、従来の肉厚では厳しいことを確認。最終的に内径24.0mmという変則的なフォークコラムになりました。当時米国製であったRockShoxにも、内径24.0mmのフォークコラムを有したサスペンションフォークMAG21を特注していたことがありました。
  古い文献で見られるものは、どうもそのような強度的対策は無いように思われます。その上フォークコラムは、25.4mmです。果たしてこれで問題はなかったのでしょうか。もう現物は存在しないでしょうから、どうでもいいことでしょうが。


ARAYA Reverse-Shot(リバースショット)ステム
1992マディフォックスカタログより。1-1/8"スレッドヘッドセットですが、ステムには現在のアヘッドステムと同様の、アラヤオリジナルのステムがいち早く開発されました。

ARAYA Reverse-Shot

ARAYA Reverse-ShotⅡ(リバースショット2)ステム

1993マディフォックスカタログより。翌年にはアヘッドも登場。リバースショットステムも進化して、現在見られるようにハンドルバークランプ部が分割になり、グリップを外すことなくステムの反転を可能にしました。クランプボルトが上下で平行でないのは、上下ボルトを均等に締め付けないとボルトが締めることができないために設計されました。


リバースショット2 イメージ
リバースショット2解説
これでスッキリ…?

  「これでスッキリ」なんてタイトルで書きましたが、ここまで書いてからタイトルに(?)を加えた次第。あらためて振り返りますと、呆れるくらいのさまざまな寸法規格(上記言ってますように他社さんで、ここで紹介した以外のヘッド寸法も存在します)などで、却ってややこしくなったのではないかもしれません。さまざまに広がってしまったヘッド周辺の寸法について、備忘録をかねて纏めたつもりです。ご容赦の程。
  自転車の華などと前項で申しましたように、変速機やギヤクランクなどと比べると、ヘッドセットはそんなに目立たないかもしれません。しかし、さすがに自転車の頭。ご覧いただいたようになかなか渋いコンポーネントであることをご理解いただければと思います。
 アヘッド、インテグラル、1.5と目まぐるしく変化を経てきました。ヘッドは末端部品とは異なり、直接フレームがかかわり、一番リプレース・補修が難しい部分であるだけに、規格がどんどん変わってしまうことは、良かれと思って提案されたところで、使う側にとっては迷惑な面もあります。今後も動向を見ながら、出来る限り長く愛用してもらえるような規格を取り入れていきたく考えます。