Column

バルブの話

2006/4/30
2010/5/1追記
2015/3/22更新
2015/7/18追記

(2010/5/1)
各バルブのイラスト追記しました

テキストばかりでしたので、各バルブのイラストを追記しました。

ヘンなバルブで
ポンプが使えないっ!!

まずは一般に見られる英式バルブと呼ばれるものです。英式といいますが実際には英国では使われていません。以前イギリスに自転車を輸出したとき、交わしたスペックシートに"English Valve"と記したのですが、「これは何だ?」ということになりました。英語名では"Dunlop Valve"というそうです。ダンロップが発明したことからの命名だそうですが、結局今ではイギリスで使われるバルブでは無く、現在は後述するフレンチバルブが主流だそうです。

英式バルブ

一般的な英式バルブの一例。バルブナットを緩めると、ムシゴムが差込まれたプランジャーが外れ、チューブ内エアが一気に排出されます。

  英式バルブの利点は、なんと言っても普通にポンプで空気が入れられること、一番多く出回っていますから補修も容易です。いわゆる虫ゴムというものを定期的に交換しなければなりませんが、虫ゴムやバルブに使う部品も普通に売られていますし、交換も簡単です。しかし、その虫ゴムの寿命がその他のバルブに比べて短い、また構造上どうしてもエアが漏れやすいこと、ロードなどの高圧タイヤには不向きなことがデメリットとしてあります。また、あまり普通には必要とされませんが、少しだけ空気を抜いて微妙なエア圧調整をするには向いていません。ちょっと前までは、虫ゴムを使わないタイプの英式バルブもあり、車のエアプレッシャーゲージを使えたり、エア漏れに有効でもありましたが、現在ではほとんど出回っていません。ちょっと残念です。

お洒落でスポーティな
フレンチバルブ

  スポーツバイク、特にロードには一般に使われるバルブがフレンチバルブです。見た目に細いバルブだけに、バルブ自体の重量も軽くできており、非常な高圧にも耐えるバルブです。回転部分の軽量化は、マシンの加速などに非常に有効ですから、小さな部品ですが、軽量化は大きなメリットもあるのです。虫ゴムと異なり、内部に弁構造を設けており、いったん高圧にしてから、徐々にエアを抜いて微妙なエア圧調整も可能ですから、路面状況に応じてエア圧を変えたいマウンテンバイクにも向いているともいえます。なんといっても実際に軽く、細く繊細な外観が「ちょっと違うんだゾ!」と威張れるスポーツバイクに向いています。

フレンチバルブ

フレンチバルブの一例。バルブコアを緩めて押すことでエアが排出されます。押し加減でエアの排出を調整することができます。またポンプでエアを入れる前に、軽く押すことで内部の弁の動きをよくなりエアが入れやすくなります。フレンチバルブには、リムナットが無いタイプ、あるいはエアロリムなどでリム高さが大きいリムに対応して、バルブ本体が長いロングバルブがあります。

  欠点としては、細くてその分華奢にできていますから、空気入れの際にバルブから無理にポンプの口金を抜いてしまうなど、ラフな扱いをすると破損することがあります。また、最初に述べたように普通の空気入れでは空気は入りません。しかし虫ゴムのように、空気を入れるときに虫ゴムを膨らますのでなく、内部の弁を可動させるだけですから、専用の空気入れがあると、英式に比べてラクに高圧に空気を入れることができます。普通のポンプの口金が使えるアダプターもあり、バルブの先にねじ込んで使用できますが、バルブとアダプターの金属同士の接合ですので、空気を入れるときに、どうしてもその部分からエアが漏れやすいです。やはり専用のポンプで空気を入れたいと思います。
  英語名では、Presta Valve(プレスタバルブ)といいます。高圧の、という意味でしょうか。もっとも英語圏ではフレンチバルブというフランスを連想する言葉は避けたかったのでしょうか。

クルマと同じ、
アメリカンな米式バルブ

  アメリカンブランドのMTBに時々使われているのが、米式バルブと呼ばれるものです。BMXなどはほとんどこのバルブです。クルマのタイヤに使われているバルブと同じもので、メリットとしては、いざとなればガソリンスタンドでも空気が入れられること。しかし、ガソリンスタンドでそんなサービスはしてくれないだろうなあ。クルマにも使われているだけあって、バルブ自体も丈夫です。またフレンチバルブと同じく弁構造ですので、エアも漏れにくくなります。デメリットとしては重いこと。またこれも普通にバルブを洗濯ばさみではさむようなポンプでは空気は入りません。英語名では"Schrader Valve"といいます。シュレーダーさんが発明したのでしょうか。

米式

米式バルブの一例バルブコアを押すと、エアが排出されます。

  バイクトライアルの自転車にも使用しますが、これはこのバルブが唯一バルブナットを使用しないためと、丈夫なためです。バルブナットとは、バルブの根元にあるリムとバルブを固定させるものです。トライアルでは、エア圧を下げて乗ることも多いです。また急激な制動や駆動がかかり、リムとタイヤのズレを生じさせることがあり、バルブの位置がずれてしまうことも多く、そのときにもバルブが破損しないように対応したためです。

(2015/7/18追記)
各バルブ寸法

  3種類のバルブ寸法とリムのバルブ穴径をご参考までに示します。
  仏式バルブが細いのは、見た目にわかりますが、英式と米式は微妙に寸法が異なります。リムのバルブ穴径も採用が想定されるバルブ径に合わせて加工されています。たとえば軽快車に多く使われるステンレスリムは、英式バルブが前提ですから、バルブ穴が8.2mmになっています。使われる可能性は極めて少ないでしょうが、このリムに米式バルブを使うと米式バルブの筒部分にコーティングされたゴム部分を痛めてしまう事があります。またロード用の細いリムなどは、フレンチバルブ前提で設計されていることが多く、バルブ穴を再加工し穴径を大きくして英式あるいは米式バルブを使うことは、リムの強度を著しく低下させることになりますので、絶対に行わないでください。

バルブ寸法

「CVT8 山30」、「6V1」はバルブ用のネジ規格で、一般機械用や自転車用ネジ規格とは異なる特殊なネジ規格になります。山30と言うのは、1インチ(25.4mm)にネジ山が30山あるということ。6V1はフレンチバルブでメートル規格に準じますが、「1」に対してピッチ0.8mmという関連が分かりません。

(2015/7/18追記)
兼用バルブナット

  上記で仏バルブ用のリムバルブ穴の再加工厳禁と述べました。逆に英式・米式バルブ穴に仏式バルブを使用する場合に使える兼用バルブナットを紹介します。右図のように段付のナットで、反転して組み付けることにより、仏式バルブをガタツキなく装着することができるものです。
  1990年代後半で、兼用ナットは唯一三ツ星ベルトさん(現在は自転車用タイヤ生産中止)からだけで入手可能で、アルミ切削加工で小さいながらも高価な小物でした。

兼用バルブナット

  当時のマディフックス・マルチトレールは、競技での米式バルブ使用を考慮して、米式バルブ穴リムをスペックして、兼用バルブナットでフレンチバルブを標準仕様としていた頃がありました。現在では、台湾系タイヤメーカーのチューブでは、標準でこのナットが付いてくることも多いようです。
  現在では、20×1-3/8チューブが、補修では圧倒的に英式が多いことととRSMとの部品共通化を考慮して、ラレーRSPでリム米式バルブ穴で、兼用ナットによるフレンチバルブチューブを採用しています。

致命的なバルブパンク

  先ほどバルブのズレを書きましたが、別にトライアルでなくても、タイヤのエア圧が低いとバルブがズレてしまうことがあります。米式バルブで無い場合、バルブナットで固定しているので、チューブがタイヤ内部でずれても、バルブが傾いたようにならないので、外観からは分からないのですが、中のチューブがタイヤと一緒に引っ張られてしまい、結果としてバルブの根元にストレスを生じさせバルブ根元を破損させてしまうことがあります。特にフレンチバルブでは、ダメージが大きくなります。また、一度ズレ癖のついたタイヤは、再度エア圧を適正にしても、ブレーキの際に少しずつずれて、またバルブの根元が破損してパンクという事態になったりします。バルブ根元破損のパンクは、パンク修理ができませんのでチューブを交換しなければならないのですが、ズレ癖がついたタイヤは交換する必要があります。そうでなければ何度もバルブ部分でパンクしてチューブを交換しなければならなくなります。こんなことからも、普段からのエア圧管理を行いたいものです。
  また、エアの抜けを気にしてかなり高圧で使われる方もおられす。普通に使う分には、少々乗り味がゴツゴツするだけ事ですが、問題はクルマに積むときです。ワゴンも多くなり、荷室に自転車を積む方も多いと思います。クルマの中はご存知の通り夏場では異常な高温になります。高温になると空気も膨張し、高圧気味のエアがさらに高圧になります。リムによっては構造上チューブの下に敷くフラップ(「ふんどし」という人もいます)も伸びの少ないポリウレタンを使うべきリムがあるのですが、普通のゴム製のフラップを使っていると、高圧になりすぎてその部分でパンクすることもあります。やはり適度というのも大事ではないでしょうか。

空気圧のこと

  以前も書きましたが、スポーツバイクをお持ちになったら、いいポンプを用意したいものです。ある程度のレベルのものになると、上記3種類のバルブに対応したポンプにもなっています。またエア圧のゲージ(メーター)も付いていますので、タイヤ側面に記された適正エア圧で使用できます。
  エア圧は、最近ではヘンな単位も多く使われています。何気圧というのが普通に使う単位なのですが、これも国際単位の関係で、Pa(パスカル)が圧力の単位になりました。天気予報でヘクトパスカルといっているのも圧力単位です。100パスカル=1ヘクトパスカルです。昔はミリバールとか言ってました(トシがばれます)。大体1000ミリバール=1バール=1気圧です。20気圧ダイバーズウォッチなどに20barなんて書いてますね。その他、kg/cm2というのもあります。1平方センチに何キロの力です。これが英語圏になるとPSIというものがあります。ポンド・パー・スクウェアインチ、1インチ平方に何ポンドの力が加わっているかを表しています。タイヤによっては4種類の単位で書かれていることがあります。気圧・パスカル・kg/cm2・PSIの換算は下記のようになります。

bar kPa PSI kg/cm2 標準気圧
1 100 14.5 1.0197 0.98615
3.5 350 50.75    
7 750 101.5

上の表は、タイヤに良く使う数値の一例です。国際単位からするとkPa(キロパスカル・1000パスカルです)を標準にするべきでしょうが、一番分かりやすいbar(気圧)を基準にしています。
3.5気圧は、クロスバイクや軽快車タイヤで標準的な空気圧です。PSIでは、おおよそ50と記されているものです。7気圧は、フラットバーロードなどの細めのタイヤの場合です。ロードなどもっと細いものは9気圧とか、場合によって10気圧以上が標準のものもあります。
  気圧と書きましたが、実際の標準気圧とbarは少しだけ違います。1標準気圧は1.0133barになります。天気予報図で、1013ミリバール、じゃなかった、1013ヘクトパスカルを大体の境目にして高気圧・低気圧としていますね。しかし、1bar=1kg/cm2=気圧としてもそれほど誤差はありません。

適正空気圧ですか?

  興味ある調査結果があり、街角で走っている自転車で、許容できる空気圧で自転車を使っている人は半数に満たなかったようです。ほとんどはエア圧不足。またパンクは、普通に思う釘や押しピンなど鋭利なものを踏んでおきるものももちろんですが、エア圧不足によるリム打ちパンクと呼ばれる、リムで衝撃を受けたパンクも多いようです。大体はいよいよエアが少なくなって、しんどくなってからエアを入れる方が多いようですね。
  チューブレスだとエア漏れはもっと少なくなるのですが、自転車の場合リムにスポークが必要で、リムにスポーク穴を開けなくてはならないことや、色々な問題でチューブレス化への実現が難しいです。また、スペアタイヤが積めない自転車。ツーリング先でパンクして簡単にパンク修理ができないチューブレスは、やはり自転車には難しいところがあります。チューブ構造ゆえ、どうしても経年によるエア漏れは避けがたいところです。またエア圧不足は、前述のパンクの原因になるだけでなく、漕いでしんどいなど、いいことがありません。エア圧管理を常に心がけたいものです。とは言うものの、私も家には適当なポンプしかなく、結局ツーリング前には自転車につけたコンパクトなポンプでエア入れして、走る前から疲れてしまっている自分に情けなくなります。
  今度こそ、いいポンプを家にも備えようと思います。
(もちろん、今はちゃんと備えています)
 英式・仏式・米式、いやはや図が無くてさっぱり分かりにくいものになりました。後日画像も加えたいと思います。(2010/5/1 各バルブのイラストは上記のようにアップしています)